さよならはしたくなかった 「陛下」 「何だ」 「シュタットフェルト家のご令嬢が陛下にお目通り願いたいと」 「シュタットフェルト?カレンか?通せ」 大きな扉が衛兵の手によって開かれた。 私はゆっくりと前に進む。 「よく来たな、カレン。お前が忌み嫌うシュタットフェルトの名を使ってまで私に会おうとは、私もまだ見捨てられたわけではないということかな?」 豪奢な純白の衣装に身を包み、ゆったりと段上の玉座に腰掛けるその姿はまるでギリシャ神話に出てくる神のようだった。 その神を護るように脇に立つナイト・オブ・ゼロ=スザクも合わせて、一幅の絵画を見ているような錯覚を覚えるほどに。 何故私は着たくもないドレス姿でわざわざこんなところまで会いに来ているのか。 わからない、自分が。 だけど見てしまった。 (…顔色が悪い?) 「…ルルーシュ、どういうつもり?」 気づいたら以前の調子で話しかけていた。 相手が皇帝陛下だなんてこと、すっかりどこかに行ってしまった。 とたんに控えていた側近達が殺気立つ。 「そなた!陛下に対し不敬ではないか!!」 「っ!」 無意識に構えをとってしまったが、ルルーシュが鷹揚に側近に手を挙げた。 同時にスザクもするどく制止する。 「よい。彼女は私の大切な友人だ」 「控えよ!陛下の御前である!」 「はっ、失礼をいたしました陛下、枢木卿。しかし」 「下がって良い。私は彼女と話がある」 「陛下!しかし、カレン・シュタットフェルト、いや紅月カレンといえば黒の騎士団の…」 「聞こえなかったか?私は下がれと命じた。カレンは私の妃になる女性だ。手を出すことは許さぬ」 「ちょっと!」 「陛下!」 「陛下!?うっ…イエス、ユア マジェスティ」 側近たちは一瞬にしておとなしくなり、ぞろぞろと部屋から出て行った。 残されたのは私とルルーシュ、スザクの三人だけ。 「今の…ギアスを使ったの?」 「以前にな。君も見ていたんだろう?『我を認めよ』と。」 (ああ、そういえば…) 言葉に出せずになんとなく視線を彷徨わせると、脇にいたスザクが目をそらす。 彼もあれだけのことをやってのけたのに、やはり触れられたくないのだろうか。 「スザク、お前も席を外してもらいたい」 「ルルーシュ!?」 驚いた声でスザクが問い返す。 まさか既知の間柄である自分が追い出されるとは思わなかったのか。 「カレンと二人きりで話がしたい」 「殺されてやるつもりか?」 ぞっとするような低く冷たい声に、思わずぶるっと震えが走った。 私の知っていたスザクはこんなしゃべり方をすることはなかった。 学園では生徒会の仲間として、戦場では何度となく敵として対峙してきたけれど、いつも彼は熱くまっすぐだった。 そう、あの神根島でルルーシュを撃った時でさえ。 少なくとも、これは私の知っているスザクではない。 あの「ブリタニアの白き死神」の二つ名にいつも違和感を覚えていたけれど、これが彼の本性なのだとすれば理解できる。 しかしそんなスザクにも慣れているのか、全く動じることなくルルーシュが当然のように答える。 「俺はまだ死ねない。計画に支障をきたすようなことはあり得ない。それに…カレンが俺を殺すこともない」 「わかった信じる。…イエス、ユア マジェスティ。外に控えます。何かあればお呼びください」 「ああ」 騎士らしく一礼して、スザクが外に出て行った。 そして広い広い謁見の間に静寂が訪れた。 私とルルーシュしかいないこの場所に。 「カレン」 その静寂を破ったのは、彼の方だった。 その声の重さになんとなくいたたまれず、おもわず堰を切ったようにしゃべりだす。 「っ!そうよ、妃ってどういうことよっ!」 「あの位言っておかないと、私ですらこの皇宮内で君の命を守りきることはできない。どれほど命じようともスザクは君の敵だ。知っての通りな。いくら君でもスザクとこの宮のすべてを一人で敵に回すわけにはいかないだろう?…それとも」 もったいぶって言葉を切る。いつものシニカルな微笑を浮かべて。 「少しは期待してくれたのかな?」 「す、するわけないじゃない!!」 はははと笑いながらルルーシュが立ちあがる。 そのまままっすぐ階段を降りてきて、私の前で立ち止まる。 そしてすっと笑みを消し、真摯な視線で私をまっすぐに見つめる。 「ちょ、ちょっと何よ、ルルーシュ」 あまりに真面目に見つめられてしまい、思わず戸惑ってしまう。 「君が無事で良かった。本当は黒の騎士団に戻ってきた時に伝えたかったのだが」 (君が帰ってきてくれて嬉しい) 色々あって伝えられなかったから。 発せられなかったその言葉はまっすぐに私の心に伝わった。 確かに私が戻ったとたんに色々ありすぎた。 そしてルルーシュはどれだけ辛い思いをしてここにいるんだろう。 何があったか知らないけど、私なんかよりもずっと大変だったはずなのに。 世界中で一番嫌っていたという父親と同じその地位で、あなたはいったい何を願うの? 「私なら平気よ。ナ…なんか、ほ、ほらこんなとこまで来ちゃうくらいピンピンしてるし」 「そうだな」 『ナナリー』の名は出せなかった。 どうしてそんなに力なく笑うの? 嫌になるくらい自信満々なのがあなただったじゃない。 聞くのをためらうくらいに。 でも、私は聞かなくちゃならない。なぜ『ゼロ』がブリタニア皇帝に即位することになったのか。ナナリーのためにも。 けれど真っ先に口から出たのは、違う問いかけだった。 「どうして?なぜあなたはそんなに辛そうなの?」 ルルーシュは一瞬虚をつかれたような顔をした。 「意外だな。カレンからそんなことを聞かれるとは思わなかった」 「答えて、ルルーシュ。あなたは望んでその地位に就いたんじゃないの?」 「……そうだな、確かに俺は力を望んだ」 「だったら!もっとしゃんとしてなさいよ!いつだって傲岸不遜でプライドが高いのがあなたでしょ!そんな情けない顔しないで!」 「…王とは孤独なものだった。情けないな、そんなことすら気付かなかったなんて」 「ルルーシュ」 「わかっていたはずなんだがな。俺はこの手を血に染め過ぎた。失ったものも大きすぎる。だからこそ終わらせねばならない、この手で」 「『まだ』死ねない、と言ったわね。シュナイゼルを倒して、世界を平定して、全てが終わったら死ぬ気なのね」 「………」 「弱虫!孤独が何よ!私がいるじゃない!呼びなさいよ、なんで呼ばないのよ!!私はいつだってあなたを守るって決めたのに」 「カレン」 「もうあなたには私は必要ないって言うの?それならそうと言ってよ、ルルーシュ!そうしたら私だって勝手にしてやるから!何も言わないなんてひどすぎる」 「スザクがいる」 信じられない言葉に気を取られて、激昂していた気持が一瞬にして冷えてゆく。 頬を伝う涙を手の甲で拭って、一度深呼吸をする。 「あの裏切り者を私よりも信じるというの?」 「…そうだ」 「嘘ね。あなた、嘘をつくときは決して目を合わせない。どうせ巻き込んだら悪いとか、これは自分の罪とか考えてひとりで背負い込むつもりなんでしょう?もうとっくに巻き込まれてるのよ、私は」 「…だとしても。君をこれ以上過酷な運命に巻き込むことは出来ない。……もう、誰も失いたくないんだ」 「ルルーシュ、私はあなたの盾になると決めてるの。あなたを全力で護ると」 「カレン」 ルルーシュと私の視線が重なる。 吸い寄せられるように近づいて、気づいた時には唇が重なっていた。 永遠にも続くように感じられた一瞬が過ぎ、どちらからともなく離れる。 「これが俺の答えだ」 「ルルーシュ、私は傍にいたいの」 「言っただろう?俺は君を守りきることができない」 「知ってるわ。だから私がいるんじゃない。私は私の身を守ったうえであなたを守るわ」 「俺は君を傷つけてしまうのに」 「言って、ルルーシュ。私が欲しいって」 ルルーシュの目が見開かれる。 ああ、私はやっぱりルルーシュが好きなんだ。と、そう思う。 ずっとゼロが好きなんだ、と思ってたけど、この見惚れるような綺麗な顔も、あふれんばかりの知略とカリスマ、それでいて優しすぎてちょっと抜けていたりするところも、すべて。 「言って。そうしたらどこまでも一緒に行くわ。地獄の果てまでも共に」 「熱烈なプロポーズだな」 「そうよ!だから女の子に恥をかかせないでよね」 「普通逆じゃないのか?」 「いいのよ!あんたはヘタレなんだから」 「ヘタ…仮にも俺は皇帝なんだが」 「だ…って、え?」 猶も言いつのろうとした私をルルーシュが抱きしめた。 勢いをそがれて、私もそのまま口を閉ざし、彼の背中に手を回す。 「君を失うのが怖い。ナナリーも失った今、これ以上何も失いたくない。だからすべてを終わらせてから君を迎えに行くつもりだった。けれど君は今一緒に来てくれるという。俺は君を望んでいいのか?」 「…ずっとそう言っているじゃない。馬鹿ね」 「……ああ、そうだな」 数日後、私は第99代神聖ブリタニア帝国皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの騎士として、ナイト・オブ・ラウンズの一人に就任することになる。 (fin) ――――――――――――――――――――――――――――― R2 21話直後、22話以降は完全無視パラレル。 つか、どっちかといえば22話はこういう展開であってほしかったという妄想。 「さよなら、ルルーシュ」「さよなら、カレン」はルルカレ押しには切なすぎる。。 カレンがルルーシュの本心に気づいてないとか、ありえないと思ってるんだけど。 本編はKYで嫌いだ…しくしく。 最初は18禁描写ありで書いてたのですが、あまりの文章力のなさに悲しくなったので一旦健全バージョンでアップ。 えろを萌えられる描写で書ける文章力がほしいです。。 |