光の先に ―私が迷っているときは、いつもあなたが傍で支えてくれていた。 『大丈夫だよ、ナナリー』 ―私が道を踏み外しそうなときも、いつもあなたが傍で進むべき道を照らしてくれていた。 『こっちだ、ナナリー』 ―目を閉じればいつでも思い出せる、最愛の人の声。 愛して愛して愛して止まなかった。 あの頃は世界はお兄様とお兄様への愛だけでできているとすら思っていた。 けれど愛し続けることすら許してくださらなかった残酷なお兄様。 『ナナリー、愛している』 一緒に逝くことすら許してくださらなかったのに。 私は、今迷っています。 道を照らしては下さいませんか、お兄様。 「ナナリー、それが終わったら、次はこちらにサインを」 「わかりました、シュナイゼルお兄様」 さっと書類に目を通しては滑るように次々とサインをしていくナナリーの姿は、数年前の目の見えなかったころの彼女を知る者にとっては驚嘆に値するものかもしれない。 有能な施政者たる彼女の姿は、今となってはその名を口にするのもはばかられる彼女の兄の姿を彷彿とさせるものであろう。 慈愛の女帝の二つ名で呼ばれる彼女であるが、ふとした瞬間に魔王ルルーシュ帝の姿がかぶることがあり、人々は目をこすることになるのだ。 …やはり、彼女は彼の妹なのだ、と。 新たな書類の束が執務机の端に積み重ねられる。 「今日の分はこれで最後だから。これが終わったらゆっくり休みなさい」 「ありがとうございます。シュナイゼルお兄様はこの後どうなさるんですか?」 「私はもう少し残っている仕事があるから。私のことは気にせず休みなさい」 「でも…」 「そうだ、無理をして体を壊してもらっては困る、ナナリー代表」 いつのまにか部屋に入ってきていた黒いマントに仮面姿の男―ゼロが言葉を引き取る。 「あなたにはまだまだ働いてもらわねばならないのだから」 ―明日を生きろ。 それがルルーシュが遺した願いという名のギアス。 「…わかりました。それではこれが終わったら休ませていただきますね」 「ああ、そうしてくれ」 ナナリーは一瞬複雑そうな表情を浮かべたが、自分の体力が異母兄のそれには到底及ばないことはさすがに理解している。すぐに一番良いと思われる選択に切り替える。 「ゼロも無理をしないでください」 「私は大丈夫だ」 ナナリーはゼロの正体が自らの幼馴染であることに気付いている。 『あの一瞬』ですべての真実を悟った彼女は、すべてを知っていて何も言わないが、時折こうしてゼロ=スザクに心遣いを見せる。 しかし兄を殺した彼を許しきれないのもまた事実。 「世界の希望は『わたくし』ではなく、『ゼロ』なのですから。ゼロもきちんと休んでください」 「……。ああ」 『ゼロであれ』と認識させられるのが、彼にとって一番の罰であると知っていて、小さな棘のように突き刺さる思いが時折ちくりと外に向けられる。 この人が悪いわけではないのに。 ―悪いのはお兄様。 残酷なのはお兄様。 …そして永遠に愛しいのもお兄様。 あなたが指し示した未来は光に満ち溢れ、その先にはいつもきらきらと輝いたあなたの笑顔があると信じていた。 お兄様。 どうか道を照らしてください。 小さなナナリーに、こっちだよって道を教えてください。 でないと、いつか私はあなたの願いを違えてしまいそうです。 お兄様 お兄様 お兄様…(fin) ------------------------- 本編がアレだったからか、どうしてもルルナナ両想いらぶらぶが書けません。 ナナリーはスザクを許せませんが、憎むこともできないジレンマ。 二人はそのうち愛のあるようなないような政略結婚でもしそうです。 扇夫妻はナナリー様の権限で当の昔に更迭済みなのが仕様です。 |